陶磁器と文鳥と作劇塾
作劇塾の塾生です。塾での日々、及びアンティークや陶磁器類、そして文鳥の雑文
原作と映像化の間には……
実をいうと、あまりホラーは読まない。

あっすみません、ホラー担当ですが、愛読しているのは怪談です。
好きな怖さのティストは、怪談なんです。ぶん殴りの力技の恐怖より、ひやりと怖い、背中をすっと横切る冷気。

ですが、ホラー小説の中でも私の好きなタイプの怖さのものがございます。
それが貴志祐介『黒い家』

保険金殺人とサイコパスをテーマにした傑作です。
生命保険会社で保険金支払い査定の仕事をしている主人公。顧客の家に呼び出されて、その家の男の子の首吊り死体を見てしまう。
夫婦が我が子にかけた保険金を請求されるのですが、その父親の常軌を逸した請求ぶりに、子供は父親に殺されたのではと疑う主人公。
調査したところ、出てくる夫婦の保険金疑惑。主人公は、父親が我が子を手にかけ、次は鈍重そうな母親に危険が迫ると思い込み……

これは怖かった。
じりじりとくるサスペンス、サイコパスという人間の空っぽな心が、保険金殺人というテーマと絡んで描かれています。
サイコホラーだ。狂気という、虚無の怖さ。

あまりに怖かったので、映画化されたので観に行ったのです。何年前の話。


大竹しのぶが母親役でした。父親役は西川雅彦。

この原作は、ホラーでも背中がヒヤリと怖いタイプです。
本来「統計的思考を父に、相互扶助の思想を母にして生まれた、人生のリスクを減殺するシステム」
これが、人間にかけられた賞金となってしまう怖さ。

心を持っていない殺人鬼。これが一見鈍重な中年女である怖さ。
仕事で関わり合ってしまった不運。これがハモ切り包丁を持って、恋人にまで忍び寄る。
ディテールも凄いんです。嗅覚異常とか、人間社会と虫の世界になぞらえての描写とか。

それが、映像化された瞬間、コワさを倍増化させていたディテールを排除、原作にはなかったエロだの小道具だの設定を付け加え、全てが平坦なただの『力技ホラー』になり下がったのです。
黄色いワンピースの派手な主婦、大竹しのぶが、包丁振り回すだけの話になってしまった……

キャスティングの失敗というより、この原作を持つ『恐怖』の種類の取り違えが最大の失敗でした。


鈍重な主婦だから、怖いのに。
香水の匂いがきつい、嗅覚異常の主婦です。
主人公は無人であるはずのビルに、その香水のきつい匂いが漂っていることで、主婦が自分を殺しに来ていることを察知する場面なんか、かなり怖いのに。

原作をちゃんと読んだのか! 

映像化するにあたって、切ったり付け足したり、そりゃ文章とは違うもん。
ストーリーに改編部分は出てくるだろうさ。
ですが、大事な核の部分をちゃんと残しているかどうかが、成功か失敗の分かれ目だと感じております。

違う意味で、映像化の怖さを見せつけてくれた映画。

最近、また原作を読み直した結果、数年ぶりに思い出し怒りがこみ上げてきたのでした。







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